企業価値向上のためのIR経営戦略 遠藤・岡田・北川・田中編著 東洋経済新報社 理論編と実践編に分かれている。編著者には実務経験者も含まれてはいるが、内容は少々専門的である。とても初心者向けとは言えないが、IRの現在の水準をほぼすべて網羅しているということに意味があり、この本の重要なポイントである。IRを仕事にしているなら、このくらいは理解していなければならないのだろう、という脅迫観念にかられてしまいそうだ。少なくともIRの責任者や担当役員はこのレベルは理解しておいてほしい。 | |
アナリストのための企業分析と資本市場 北川哲雄著 東洋経済新報社 タイトルのようにこれはアナリストのために書かれている。しかし、IRの担当者にとっても極めて有用である。アナリストがどのような手法で企業を分析しているかを知らなければ、IRはできないからである。さらに、著者の資本市場に対する見識の高さを知ることもIRの担当者にとって有意義だろう。著者は最近学界へ移ったが、長くアナリスト、ファンドマネージャーの職にあり、理論家として鳴らした人。文中に誤植が散見されるのと、動きの早い金融市場だけに少し陳腐化した部分が見られるのが残念。改訂版の刊行が待たれる。 | |
「企業価値」はこうして創られる 本多淳著 朝日新聞社 いまはIR支援会社と大学に籍を置いているが、著者は松下電器で長くIRの実務を担って来た人。松下は日本企業の中では早くから米国証券市場に上場した企業であり、それだけに実務家としては最も豊富な経験を有していると言える。前半はその経験談、後半は経験から得たIR担当者へのアドバイスといった趣。初めてIRを担当することになった人に、この本を薦める。 多くの松下の出身者が著書をものしているが、共通しているのは会社への想いである。それだけ松下という会社または松下幸之助氏には求心力があったのだと思う。この本を読んでも、その思いはさらに強くなるばかりである。 | |
米国IR実務基準第2版 全米IR協会編 日本IR協議会訳 日本IR協議会発行 世界のIRをリードしている米国IR協会(NIRI)がまとめた実務基準。これほど簡潔にストレートにIRの実務とそのあるべき姿を記述しているものは他に見られない。IRの実務家ばかりでなく、経営者にこれをぜひ読んでほしい。 しかし残念ながら、これは市販されていない。入手方法はIR協議会へ問い合わせてほしい。 | |
実践IR 三ツ谷誠著 NTT出版 IRを自社株のマーケティングであるとの明快な観点から書かれたIRの概説書。IR支援会社での豊富な実体験をベースにした記述は、IRの実務担当者にとって多くの示唆に富む。著者は資本市場とIRに関してしっかりした視点を持っており、それがこの本の説得力の源泉である。後半の資本主義の発展過程に関する記述は、著者の意図は理解できるものの少し冗長だ。IRの知識や経験をすでに持っている人向きの本。 | |
実践IRマネジメント 甲斐昌樹著 ダイヤモンド社 書名通り実践的なIR実務の本。IR関係の本の中には、IR担当者が読むと、机上の空論であったりお題目の羅列であったりして違和感を感じるものが多いが、この本は実際のIRの現場を踏まえていることが伝わってきて、共感できるだろう。実際の仕事に活かせる内容が豊富である。これからIRを手がける人にも、ベテラン担当者にも勧められる一冊だ。 | |
価値創造のIR戦略 藤江俊彦著 ダイヤモンド社 IRが価値を創造するのかどうか。首をひねりたくなる書名だが、まとめ上手の著者が既存の文献や企業への取材をもとに構成したと思われるIRの概説書。これからIRを始めようとする人や経営者向きか。すでに日常投資家と対峙しているIR担当者には建前論ばかりで参考にはなりにくいだろう。環境経営やエコファンドについての記述はあるが、もう一つ先の社会的責任投資(SRI)まではカバーされていないのは文献がまだ少ないためか。 | |
IRと株式投資の真実 渡邉恒著 ラジオたんぱ 英米における最近のIR事情に関する記述が約3分の1。残りは欧米の企業の例をもとにしたコーポレートガバナンスに関する記述で占められており、これはコーポレートガバナンスの本である。書名は内容をよく表していない。出版元は「IR」を書名にした方が売れると考えたのかもしれないが、読者にとっても著者にとっても迷惑なことだ。言うまでもなく、コーポレートガバナンスとIRが不可分であることは当然のことなのだが。 |